秋の終わりとともに2018年クライミングW杯も終わりを迎える…
W杯最終戦、中国 厦門(アモイ)
注目の女子リード決勝。
今回決勝に進出した8名の選手の国籍は以下の通りだ。
スロべニア人:4名
日本人:3名
オーストリア人:1名
決勝動画 URL : https://youtu.be/hNAlC2hxXAY
普通の日本人ならメダル圏内の同国の選手を応援するであろう。しかし、関係ない。残念ながら始まる前にすでに勝負は決しているのだ。
ヤンヤ・ガンブレッド(SLO)とジェシカ・ピルツ(AUT)、絶対的な力を持つこの女王達がW杯に出場している限り奇跡は起こらない。
9月の世界選手権を含め、幾多の難関決勝課題を完登してきた世界最強の2人。
「完登できないのが当たり前。リードは運の要素も大きい。」
というリードクライミング競技における従来の常識を打ち破るイメージを、毎回当たり前のように決勝課題を完登することで我々の脳裏に焼き付けてきた張本人達だ。
通常、決勝コース課題の設定は実力差を出すために多くても1人だけが登れる難易度に設定される。しかしこの二人は明晰な頭脳で常にコースを完璧に解読し、最適なペース配分と精密なクライミングで登り切ってしまう。
2人の順位を決めるものは常に準決勝のカウントバックか、もしくは本来リード競技には関係がない残り時間。明らかに異常である。
陸上でいうボルト、サッカーでいうペレやネイマール級の怪物…
女子クライミング界の歴史を大きく塗り替えるほどの実力、そして美貌を持った2人が同じ時代に生まれた。
「出場したら勝利が約束されている。」
悪くても2位か3位。そんなレベルだ。天に愛され、才能に恵まれ、努力も惜しまない2人のパフォーマンスを見ることができることに我々は感謝の祈りを捧げなければいけないかもしれない。
現在2人に肉薄できる選手は、韓国のキム・ジャインのみ。しかし、経験値ならともかくとして、30歳を越えた彼女の実力がこれからさらに成長するであろう20歳、21歳の2人に追いつくとは到底思えない。そして残念ながら今回の大会ではすでに準決勝で10位、敗退している。
結果的に今回の最終戦決勝においても2人は完登。そして準決勝のカウントバックでジェシカ・ピルツが優勝(決勝の完登スピードでは実はヤンヤが勝っていた)。
しかしヤンヤもとても満足げな表情。彼女にとっては勝利が絶対ではなく、リードクライミング競技の本質、決勝での完登こそが自身の目標なのだ。
完登後、今回のW杯の男子1位であり、ボーイフレンドでもあるドメン・スコフィックとカメラの前で熱烈なキスを交わす彼女。久々に純粋な愛というものを見た気がして、すごく、ほんわかした気持ちになった。
…本来スポーツとはこうあるべきなのかもしれない。
生きるためとはいえ、結果や期待やプレッシャー、そしてお金に縛られることは間違いなくスポーツの正しい姿ではない。最近はそういった純粋に楽しむ気持ち、誰かと喜びを心から分かち合う瞬間が失われつつある気がする。この出来事は、そんな忘れていた、風化していた初心を思い出させてくれた。ドメンとヤンヤには感謝したい。
書き忘れていたが、日本人もベテランの野口啓代が3位に、波田悠貴が7位に着いた。
若手の小武芽生(5位)、田嶋あいか(8位)は残念ながら力及ばず。男子も若手の西田秀聖(4位)と本間大晴(5位)が健闘したが、メダルには及ばなかった。 しかし伸び盛りの年頃。来年にはメダルを狙える実力をつけていることであろう。これからの成長に期待したい。
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